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プラチナナノコロイド研究経緯
技術アドバイザー
東京大学大学院 新領域創成科学研究科
先端生命科学専攻 細胞応答化学分野教授 宮本 有正(東京大学教員プロフィール)
2012年7月15日
過去の研究成果(タウリン輸送体)
私は長年に渡り栄養成分の膜輸送体(例えば、糖、アミノ酸、ペプチドなどを細胞内に取り込む生体システム)の特性解析の研究を行なって参りました。その中で特に興味を抱いたのはタウリン輸送体でした。
タウリンとは含硫アミノ酸(硫黄原子を含むアミノ酸)の一つで、成人は体内で合成できます。しかし、胎児、乳児、幼児期にはその合成能力がまだ発達しておらず、胎盤を介しての母親の血液や母乳から、更には食事から摂取する必要があり、この時期特有の必須アミノ酸と言われています。
食事からタウリンを除きますと、遺伝病の網膜色素変性症と同じような病理学的経過を経て、失明してしまいます。遺伝病の網膜色素変性症は症候群であり、光感受性細胞で光伝達を構成するタンパク質の何処かが機能しなくなっています。
タウリンの輸送体が、胎盤または消化管からの吸収そして網膜への運搬に重要な働きをしているわけです。
遺伝性の網膜退化の改善
タウリンが次亜塩素酸(HOCl)と瞬時に化学反応してタウリンクロラミンになります。そのことは、タウリンの抗炎症、または解毒作用として知られていました。その理由は、化学反応により次亜塩素酸より、はるかに炎症毒性の小さいタウリンクロラミンに変化するからです。
しかし私の研究で、この反応生成物であるタウリンクロラミンには、転写因子NF-kBを遮断し炎症性サイトカインの発現放出を抑制することで、更に炎症作用を抑制することが分かりました(J Biol Chem 277:24049-24056,2002)。タウリン欠乏に因る網膜退化において、タウリンと過酸化水素(H2O2)、次亜塩素酸(HOCl)、などの活性酸素(reactive oxygen species: ROS) がキーの物質です。
強力な抗酸化剤の開発が、遺伝性の網膜退化の改善にも働くことが推察されます。
ナノ化されたプラチナに着目
活性酸素は網膜色素変性症ばかりではなく多くの病気の発症と進行に係わっています。そこで、強力な抗酸化剤の開発には多くの病気の改善が期待されます。
サプリメントとして使用されているビタミンCやE、ポリフェノール類、フラボノイド類、カロチン類などの抗酸化物質は、活性酸素と一回反応して自らが酸化されると還元力を失います。もし触媒的に抗酸化活性を示せるものがあれば、強力な抗酸化剤となりえます。
昔から過酸化水素を触媒的に還元できるプラチナに行き当たり、最近のナノテクノロジーの発展によって、ナノ化されたプラチナ、nano-platinum(nano-Pt、nanoは10-9meter)に焦点を当てて研究を展開することにしました。
プラチナナノコロイドの研究開始
まず、世界に存在する還元力があると言われる天然水に着目しました。当時、それらの水の還元力は、水中の微細金属クラスターに吸蔵される原子状態の水素に起因するという、活性水素説が有力でした。
この活性水素説によれば、活性水素は、多くの病気の発症と進行に係わる生体内の活性酸素を還元し酸化ストレスを減少させることができるので、還元力のある水は種々の病気を改善し、奇跡の水と呼ばれるようになったのではないかと推論されていました。
活性水素説は電解還元水の還元力の説明にも応用され、水を白金で被膜した電極で電気分解した際に陰極側の水に還元力が生じるのは、陰極から溶け出す微細白金に吸蔵される活性水素によるとされていました 。
確かに、白金は、水素ガスを解離して原子状態の水素にする活性は高いが、水素吸蔵活性は低いので、通常の気温や気圧下では大量の原子状態の水素を保持できるかどうか疑わしいと考えられます。
原子状態の水素は不安定で水素分子すなわち水素ガスになり、バブルを形成し水から出て行くと考えるのが科学的に道理に適っているはずです。そこで、昔から過酸化水素を触媒的に還元できる白金そのものに焦点を当て、nano-Ptを用いて抗酸化力の研究を始めることにしました。
プラチナナノコロイドの活性酸素の消去能
まず、nano-Ptを合成し水に分散させたコロイド溶液(白金ナノコロイド)を作製し、活性酸素の除去を検討しました。nano-Ptは、最も生体と係りのある活性酸素(O2-) 、過酸化水素((H2O2) 、free radical(Free Radical Research 41: 615-626, 2007; Nanotechnology 20, 45/455105, 2009)等を減少させ、活性酸素除去活性が示唆されました。
次に、作製した白金ナノコロイドに一晩水素ガスを吹き込んでも、O2- の除去活性は上昇せず、白金に吸蔵されている原子状態の水素が活性酸素を除去することはありませんでした。
したがって、活性水素説に対しては、否定する結果を得ました。nano-Ptは触媒的に活性酸素を消去していることが示唆されました。
プラチナナノコロイドのバイオへの応用
生体内には活性酸素に対して防衛機構があり、O2-はスーパーオキシドデスミュターゼ(SOD)という酵素で酸素とH2O2に分解され、H2O2はカタラーゼ(Cat)で酸素と水に分解されます。nano-Ptにも両酵素の活性があり、SOD/Cat mimetic(肩代わりをする物質)として、最近着目をされています。
活性酸素の過剰発生が原因の、病気の発症や悪化に対するnano-Ptの有効性は、その疾患の実験動物モデルに於いて、幾つかの実験で実証してきました。nano-Ptの静脈内投与による脳梗塞時における梗塞部位の縮小(J Neuroscience Research 89:1125-1133, 2012; Neuroscience 221:47-55,2012)、nano-Pt飲水による筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)の改善(未発表)、皮膚へのnano-Pt含有ゲルの塗布によるロメフロキサシンで誘発性光感作性皮膚炎の軽減(Experimental Dermatology 19:1000-1006, 2010)、nano-Ptの飲水投与でのメタボリックシンドロームによる動脈硬化の形成の進行阻害(日本老年医学雑誌45(3): 287-290, 2009)、nano-Ptの鼻腔内投与による慢性閉塞性肺疾患(COPD)の改善(Pulmonary Pharmacology & Therapeutics 22: 340-349, 2009)